ともなが あ希 「あ、父さんだ」 会社帰りの父さんの姿を見つけたのは、母さんに頼まれて、お使いに出た帰り のことだった。 父さんたら、昔兵隊さんだったから、歩く姿だって背筋をピンとのばしている し、足の運びも規則正しくカッカッカッと全くすきが無いのよね。 私は父さんを追いかけながら、何だかこそばゆいようにおかしくて、笑いがこ み上げてきちゃった。父さん、今日は帰りがおそいけど、何かあったのかなあ。 「ただいま!」 少し前に父さんがしめた玄関の戸を、私は勢いよく開けた。すると、さっきま であんなにかっこ良く歩いていた父さんが、玄関の上がりがまちに大の字に寝っ ころがって、足を投げ出している。 私は何が起きたのかわからなくて、そこに立ちつくしていたんだけど、きっと 父さんも大きな声で「ただいま!」って玄関に入ったんだね、奥から母さんがエ プロンで手をふきながらパタパタ出て来たもの。 母さんは、ちらっと私を見て、 「あ、かほ、お使いありがとう」 と言ったけど、すぐ父さんのそばにひざをつき、 「まあまあ、父さんたら、こんなになるまで飲んできて。起きて下さいよ」 と靴をぬがせたり、ネクタイをゆるめたりし始めた。 「これ片づけてね」 母さんは私に、父さんの帽子とカバンを渡すと、奥に向かって大きな声でみん なを呼んだ。 みんなと言うのは、私の兄弟なの。高校一年のもも姉ちゃん、中学一年のしゅ ん兄ちゃん、それに二年生の妹めぐみと年長さんの弟のひろし。五年生になった 私を入れるとわが家の兄弟は、全部で五人。 そう言えば私もこうして呼ばれると、いつもみんなといっしょに、どうしたの |