「うさぎ、小さな小屋の中だけにいて、苦しそうだったから」 「ほう、こうへい君にはそう見えたんだね」 「はい」 声は小さいけど、きちっとした返事だ。 「うさぎは、何か言ってたかい?」 「ここから出してくれって」 うんうんと松さんは、二、三度うなずいた。 「それで?」 「ここから出て、自然の中で生活したいって、そう言ったんです」 「なるほど、それでこうへい君は、うさぎを小屋から出してあげたんだ」 中学に上がるまでは、よく一緒に遊んだこうちゃんが、松さんの前で何か、わ けのわからないことを言っている。 きっと、トシも同じ思いだったに違いない。ぼくたちは、二人から目が離せなか った。 「こうへい君がそう思ったとき、だれかに、例えば小学校の先生とかに、そのことを 話してみたらよかったよな。そうすれば、みんな驚かなかったと思うが、どうだ ろう」 「ぼく、小学校の先生のこと、少しも頭に浮かばなかった、な。ほかの人のこと も・・・」 「そうかあ、うさぎのことしか見えなかったか。ところで、小屋から出してやった うさぎは元気でいるのかい」 「はい。あ、いや元気だと思います」 「放したあたりには、いるのかなー」 「いるはずです」 「おじさんたちも、一度そこへ連れて行ってくれないかい」 こうちゃんは、一瞬けいかいのまなざしで松さんを見たけど、すぐに、 「はい、いつでも」 と、昔のこうちゃんの顔で言ったんだ。 |