ぼくもトシも、最初は恥ずかしくて顔が上げられず、人のいない所、いない所
を選んで歩き回った。
 だから、父さんや母さんも、
「三日と続かないわね、きっと」
なんて言ってたのに、一週間、十日と続いてびっくりさ。
 母さんは朝、小さなおにぎりを作って、応援してくれるようになった。
 ごみ拾いが終わり、公園のベンチで食べるおにぎりは、ほんとうにうまいんだ。
 ところが、うさぎどろぼう見張りのときは、あんなに乗り気だったトシが、この
美化運動では、集合時間に遅れたり、ごみ拾いをさぼって公園のぶらんこにゆ
れながら、ぼくがまわって帰ってくるのを待っていたりする。
「ケン、まだやるつもりなのか。いいかげん、やめようぜ」
 このトシの口ぐせを、もうなんど聞いたかなあ。
 ぼくは、散歩のおじさんや、花だんの手入れをしているおばさん、ジョギングを
しているお姉さんたちとも、顔見知りになったし、ごみ拾いは結構楽しいんだ。
 それに、
「おはよう。ごくろうさん。ありがとう」
なんて言われると、気はずかしいけど、嬉しいしね。

 こうちゃんは休みのあいだ、
松さんに将棋を教えてもらっ
たり、学校でのなやみなんかも、
聞いてもらってるようだ。
 もし、ぼくに悩みができたら、
ぼくにはそいつを聞いてくれるトシがいる。
 それに、松さんという強い味方もできたし、
これからは何かと楽しいことが、いっぱい起こりそうな予感がする。
 ごみ拾いで真っ黒になった顔を見たら、クラスのみんなきっと驚くだろうな。

おわり


 目次へ P15 戻る
HOME