「そりゃあ、酔っててもわかるさ。それが何と言うのかなあ。ほら、かほたちが
父さんの体をあちこち持ってくれるだろう。そのみんなの手のぬくもりで、飲ん できた酒がもっとはっこうしてだな、こう、気持ちよく父さんは酔っぱらってい くんだな」 そう言いながら父さんは、いかにも気持ちよさそうな顔をした。 私は、いよいよわけがわからない。 「はっこうって?」 「うーん、飲んできた酒が、もう一度うまくなるってことかな」 私たちの手のぬくもりでお酒がはっこうして、もう一度おいしくなる・・・? 父さんはそれを期待して、いつも玄関に入ると大の字になってたってことな の?。 それじゃ私んちの玄関には、魔法使いなんかいなかったんだ。私たちの手が、 魔法をかけたみたいに父さんを変えてたってことなのね。 ん? それなら私たちのいぼは、やっぱり神様が受け取ってくれたってことに なるのかしら。 その時、暮れかけた庭から、さあっとすずしい風が吹いてきた。そして、風は わたしを取り巻き、私の中の魔法使いをつれて、どこへともなく吹きすぎて行った。 おわり |