ミホホが小さかった頃のママは、ゴキブリに出会うとスリッパ片手に、
キャーキャー逃げまわるだけのこわがりママでした。
 近頃は、大騒ぎこそしないけれど、大の苦手ということに変わりはあ
りません。
 ゴキブリぎらいは末っ子のノンノも同じで、ある時おやつのプリンの
中にダイビングしてきたゴキブリを見て、気を失ってしまいました。
 それ以来、ゴキブリを見るとおばけにでも出会ったような声を発して、
ノンノは気を失うのです。
 そこでママは、ゴキブリたちの自由な出没をこのままにしてなるもの
かと、ゴキブリの長老三匹を呼び出し、この家での住まい方について契
約をとりかわしました。
(子どもの一大事にであうと、母親はみごとに変身できるものらしい)
「いいでしょう。あなたたちをこの家に住まわして上げます。でもこの
ことだけは守ってちょうだい。
一つ、昼間はぜったい出歩かないこと。
二つ、夜出歩くのはいいでしょう。でも、私たちが寝静まってからに
してちょうだい。ぜったい睡眠のじゃまをしないこと、いいわね」
「はい、承知いたしました。さっそく帰りまして、この家に住む全ゴキ
衆に通達し、契約を守らせます。はい!」
 ゴキブリの長老三匹は、かくのごとく
神妙に答え帰っていきました。
 こうして、ミホホのママとゴキブリたち
の、この家での契約は成立したのです。
「うん! これでよしっと! ふ〜う」
 肩の力がいっぺんに抜け、ママはへたへた
と座り込んでしまいました。
 このようすを、ものかげからそっと見ていたミホホとタックンは、大
急ぎ庭の植え込みの中に飛び込み、笑いころげたことでした。

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