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 いつにもましてリキは、ていねいに、そして真剣に頭を下げます。
「そんなこと気にすることないわ。それより、もうこれからは絶対ママ
に近づかないこと、いいわね」
「それはもう肝に命じて。二度と同じことはしませんよ」
「ミホホ、タックンどこなの? おやつよ」
 頭の上で、ママが呼んでいます。
 ミホホとタックンは、頭にくもの巣やほこりをつけたまま、もぞもぞ
縁の下からはい出てきました。
「こんなとこ、ママに見られたら大変だぞ」
 ふたりは、互いにくもの巣やほこりをはらい合い、
「ママ! おやつちょうだい」
と、かけて行きました。  さて、その夜のことです。
 出張中のパパを除き、家中の者はみなぐっすり眠っています。
 台所に続くリビングでは、今まさにダンスパーティーのまっ最中。
 黒びかりするタキシードを着たゴキ紳士と、色とりどりのレイを首に
かけたゴキ淑女が腕を組み、かろやかに踊っています
 とその時、食卓のそばにある出窓の戸がスーと開き、夜風が部屋の中
に流れ込んできました。
ゴキ紳士淑女はぴたりと動きを止めます。
その静まりかえった部屋の床に、だれかがトンと降り立ちました。
その気配を感じるや、ゴキたちはいっせいに巣へ走り去りました。
(ただ一匹を除いて・・・)
 侵入してきた者は、目だし帽をかぶり全身黒ずくめのがっしりした男
のようです。
 あちこち物色しているのかギラッ、
ギラッと光る目だけが左右にゆれながら、
近づいてきます。
 だれの所にかって? 
もちろん、ただ一匹残ったリキの方へですとも。