MICC体験セミナーより
講師:壁谷哲也氏
名人の蕎麦打ち

「蕎麦打ちで大切なのは”水まわし”である」


今の時期は新米と同様、新蕎麦が出回っているそうで、今回は全蕎麦(混ざっりけのない)で作りました。 ちなみに『二八蕎麦』とは、蕎麦粉8に対し小麦粉2を入れたもの。
9人分で、700~800gくらい(名人は目分量!)

   一番粉~蕎麦の実の真中の白い部分だけを挽いたもの。・・・香りがない
   二番粉~甘皮・渋皮をのこしたまま挽いてあるもの。・・・香りがある(今回はこれ)
   三番粉~黒い皮のまま挽いたもの。・・・香りが強い
【水まわし】

“水まわし”とは、水と蕎麦粉がよく馴染むようにすること。これが蕎麦の良し悪しを決める。 水まわしをしっかりやっておけば、全蕎麦でも、ブチッとちぎれたりしない。 その後のこねたり伸ばしたりは、手早くするのが大切。(水分がとぶから)
水と粉の分量は、その時の気温、手の平の体温などで決まる。水は4回くらいに分けて入れる。

   1回目・・・唐揚げ粉状態になる。
   2回目・・・パン粉状態になる。
   3回目・・・おから状態
   4回目・・・ここでひとつにまとめる

練るのは簡単(と、いとも簡単に名人)、菊練り100から120回くらいで、すべすべになれば良い。へそが出来るので、最後に空気を抜くように出べそにしてから、 鏡餅のようにして出来上がり。

【本のし】

丸出し(円形にまんべんなくのばす)~角出し(方向を変えて、手品のように四角く薄くのばしていく)。 楽しい話を交えながら、丹念に伸ばされた蕎麦は、手漉きの和紙のように薄く、これぞ名人技!
幾重にもたたまれて蕎麦包丁で細く細く切った蕎麦は、そうめんの如く溜息の出るようなプロの蕎麦の出来上がりです。



【一気に茹でる】

「さて、ここまでは家庭で出来ても茹でるのが問題」と名人。ここ山寿荘の厨房には、業務用の機器が勢ぞろい。浴槽のような四角い鍋があり、 蕎麦を入れたとて、沸騰した状態が保てるのです。これが要なんだとか。そして氷(製氷機も有り)で一気に冷やす!
さぁ、と箸を片手に待つMICCの面々。やがて運ばれてきた蕎麦に9人の箸がいっせいに伸びる。そして口々に「美味しい!」と、感動の声。 次々と運ばれるザル蕎麦を、どんどん平らげる光景は、なんだか「蕎麦の早食い競争」みたいでした。

名人秘伝の蕎麦汁

「蕎麦の美味しさは“汁(つゆ)”が5,6割方を占め、材料は同じでもプロは時間をかける」

【かえしの作り方】・・・蕎麦打ちにはほど遠くても、これなら明日にでも出来る!

醤油 1リットル
味醂 100cc
砂糖 200g

上記の調味料を鍋に入れ、沸騰寸前で火を止め、そのまま冷ます。
かめや瓶などに入れ、縁の下などの冷暗所に2週間以上おく。これをかえしと言う
かえしは煮物等、なんにでも使える。保存は利くが、作り足しはいけない。

蕎麦汁の作り方】

本(かつを)節・宗田節・さば・こんぶ(根こんぶがいい)・干ししいたけなど、だしは好みで選ぶが、上等なだし汁を作ること。 (壁谷名人の調達どころ・・・豊橋萱町の中野新町商店

つけ汁の場合  だし汁:かえし
汁を飲む場合 だし汁8~10:かえし

蕎麦よもやま話


ざる蕎麦と盛り蕎麦の違いは?・・・江戸時代は、せいろに盛ったものを盛り蕎麦といっていた。ざる蕎麦は、言葉どおりザルに盛り付けられ、 海苔がのっている。
最近では汁にも違いをつけ、おたまに味醂と砂糖を入れて火にかけ、アルコールを飛ばしたものを隠し味として使うこともある。
蕎麦前とは?=お酒(清酒)のこと。 「蕎麦は3分で食べろ」といいます。光っていた蕎麦が水分を吸って伸びた状態になると、残ったお酒をかけてまた食すのだとか。

蕎麦湯を請求されるのは、作る側にすると、ちょっとこわい。蕎麦を食べているときには満足していた汁の味も、残った汁に蕎麦湯を 足すと“だし”の良し悪しが分かってしまうのだそうです。

「シラフでは作ったことがない」と、蕎麦打ちのもうひとつのコツを、そっと教えてくれた名人。 自宅にも蕎麦小屋があり、形原城跡から『三の丸』と命名。(先日のセミナー「土の魅力」でのスライドに登場したのかもしれません) 敷地内に陶芸のための窯を造り、自作の器で手打ち蕎麦を食すのが夢だとか。そのときには我らも、ぜひぜひ押しかけたいものですね。