『古美術・神田』さん、こと和箪笥さんのサイトで
雑誌「太陽」の特集『古民家と暮す』に掲載された
Oさんのことにふれておられ
ちょうどその号を持っていたので、さっそく見ました。
たくさんの古民家再生を取りあげている中で
「きっとこの家に違いない!」
と確信したお宅が、O邸でした。
和箪笥さんから『晒柿』を紹介していただのでしょう。
ほどなく、Oさんから
「よろしかったら和箪笥さんとお遊びにいらっしゃいませんか?」
とのメールをいただき、もう天にも昇る思い!
そして梅雨入りの6月、和箪笥さんに便乗して
静岡のO邸を訪問させていただきました。
時折雨のパラつく天候でしたが、心は快晴!
東京にお住いのOさんは、ご主人のご実家の築160年余りの古民家を何とかしたいと思い立ち、建築家・松永和廣氏の手掛けた再生古民家を見て設計を依頼されたそうです。
お互いが骨董好きとあって意気投合。
解体された古い洋館の建具なども加わって、和洋の家具や骨董が、暮しと寄り沿うような、穏かな佇まいに再生されました。
以前は、一ヶ月に一度通っていた古民家に、今は息子さんご夫婦が住まわれているそうです。
この訪問では、ただただ感激し、舞い上がっていた私でしたが、写真を通して、あらためてOさんの美意識の高さとセンスの良さを認識しました。
前置が長くなりましたが、古民家O邸を、どうぞご覧下さい。(2004.6.20)
お美しいOさんに出迎えられ、石段を登って玄関に踏み入れるや、ひときわ目を引く大きな壺、燭台、筒描、古布の額、ランプ、古伊万里・・・
アンティークガラスの瓶に活けられた泰山木の花が、凛とした空気を醸し出し、玄関のタタキに敷かれた伊豆石も、やわらかな光を放っています。
“瀬戸のしょうぶの絵”でさりげなく季節感を装う、匙加減のいい設えに早くも釘付け。
「どうぞ、ご自由に見てくださいね」とのお言葉をいただいて、それはもう存分に、あっちこっちを行ったり来たり。
目も心も点になった私は、逸る心を抑えるのがやっとでした。
玄関ホール西側の和室は、昭和初期を思わせるビクトリア調の家具が、古民家によく似合い、 梁から下がったペンダントや、アンティークランプの心地良いフォルムに、ホッとします。
冷たいお茶の入ったグラスもコースターも、時代もの。庭の木々を眺めながら、ふと古きよき時代にタイムスリップような錯覚に陥り、 できれば時計をこのまま止めてしまいたいような・・・
広縁に置かれた椅子は、日本楽器製(現YAMAHA )の折畳み椅子で、“文化椅子”ともいい、 「骨董屋さんで出会ったこの椅子に、両親が同じ椅子を使っていたことを思い出した」そうで、手に入れられたとか。1928年に発売させて以来、 シンプルな意匠性と、機能的で使い勝手のよさが人気を集め、戦後は復刻版も発売され、今なお人気の椅子でもあります。
手持ちでフラッシュ無し、おまけに露出が足りなくて暗い写真になってしまった階段箪笥周り。
2階にはバンドを持ってらっしゃる息子さんの練習場と納戸があり、書がしたためられた押入の襖紙は風化してなお美しく輝いていました。
この家の中心である“囲炉裏の間”は
がっしりした梁の黒さと
漆喰の白さのコントラストが美しく
明り取りを設けた天井から光が差込んで
囲炉裏端を照らしていました。
二つの階段箪笥、和箪笥、飾り棚
オブジェのような存在感のある自在鉤
古伊万里や壺など、吟味し尽くされた骨董が息づき
古民家の真髄が凝縮された空間でもありました。
ホール正面の洋室は、蔵戸を座卓に使い、今も使えそうな古いミシンと、ちゃんと音が出た!足踏みオルガン、お医者さんで使われていた、ガラス張りの薬棚には、ガラス瓶などのコレクションが、美しく輝いていました。
この部屋から続く化粧室は、パターン貼りモザイクタイルの洗面カウンターに、レトロなデザインの水栓金具と古材で造られた鏡が設けられた、素適なしつらいでしたが、明るさが足りなくてシャッターが切れず、お見せできないのが、ほんとに残念。
梁の曲線と天井の傾斜が、ヨーロッパの田舎家を思わせる食堂(左下)は、若いご夫婦の暮しが垣間見え、ふと、「古民家での暮しをどんなふうに感じていらっしゃるのかしら」と、羨ましさ半分も手伝って、想い巡らしてしまいました。
大正時代の古い洋館で使われていた、文様の美しい型ガラスの建具。
3種類の型ガラスをステンドグラスのようにデザインされています。
お宅を訪問させていただいたうえに、Oさんの手料理もご馳走になりました。
O邸は食前酒を楽しみながらのお食事とか。アルコールに弱い和箪笥さんとアルコールアレルギーの私は冷酒を舐める程度。(笑)
レシピは、お肉がとろけるくらいに、じっくり煮込んだビーフシチュウと野菜の炊き合わせ、ゴマ豆腐、お嫁さんが作ってくださった、エリンギのサラダ、パン、そして丁寧に炊かれた御飯と、お出しの効いたお味噌汁、デザートまで用意してくださり、どれも美味しくて、ただもう感激しながらいただきました。
もちろん器は骨董です。
Oさんとともに、私たちを大歓迎してくれたのは、ゴールデンレドリバーのビールちゃん。
犬好きが分るのでしょうか、和箪笥さんに、もうべったり!
感情を素直に表現するビールちゃんに、猫派の私も目尻が下がります。
それに古民家で暮す犬・・・やっぱり羨ましい。
「大区画整理が始まって私の家も2,3年後にはだいぶ様変わりしてしまいます」とおっしゃてたOさん。
道路のかさ上げで、後退あるいは移転を余儀なくされる家が多く、O邸の手積みの味わい深い石垣も、お隣が後退分を延長してくるので、取り壊される運命とか。
貴重な建築資産を、どう守っていくかは、その町の“文化のバロメーター”。なんとも惜しいことです。
さてさて、「古民家見学」はいかがでしたでしょうか?
言葉では説明しきれなかった分、写真で・・・これも怪しいのですが、感動のおすそ分けができたらいいなぁと思います。
最後になりましたが、素晴らしい機会を与えてくださったOさんと、引きあわせて頂いた和箪笥さんに、深く深く感謝いたします。