「幡豆の古民家をたずねて」

(2010.10.10)

白竹木材さんが改修された、幡豆の民家を見学させていただきました。
三河鳥羽駅から歩いて15分くらいの、海の見える平屋の民家で、 まだ家の中に手を入れていない頃にも見せていただいてたので、どんなふうに改修なされたのかが、とても楽しみでした。

この家は、お施主さんの奥様の生家で、築およそ100年になるそうです。
ご実家が空き家になったあと、借家として30余年、人が住まなくなってから10年が経っており、 屋根などの傷みもすすんだことから、古い民家を解体して畑にする計画だったそうです。
その相談を受けて建物を観た白竹木材さんが、趣きのある民家を壊すには忍びなく思い、お施主さんに話されて、限られた予算の中での改修工事がなされました。

まずは雨漏りの原因になっていた和瓦の修繕からで、修繕できる職人さん探しから始まり、縁あって三重の瓦職人さんが、一週間の工程で復元されたそうです。
その瓦職人さん最後の仕事の日に、私もここへおじゃましたのでした。

玄関土間の素敵なしつらえ

北に位置しながらも、白壁とすべり出し窓の灯り取りで明るくなったダイニングキッチンは、 白竹木材さん創作のコンパクトな流し台と作業台兼テーブルが、これまた参考にしたいくらい簡素で使いやすそうです。

造り付け家具のほかに居間の大座卓も古材を三枚並べ繋げたものとか。
家の中を一巡したあと、ほかの見学者の方たちと一緒に、お施主さんからのお茶とお菓子をいただきつつ、お話も伺いました。
ここから、歩いて15分くらいのところに住まわれているそうで、解体するにも費用が掛かることだし、白竹さんの勧めもあって、 畑仕事の休憩小屋として改修に踏み切ったそうです。
予算の範囲で、すべてを白竹さんのお任せして改修を終えてからというもの、毎日のように蘇った民家へ足を運ばれているとか。
奥様の子供のころの暮らしにも話が及び、若いご夫婦の見学者(ご実家に同じようなつくりの古家があるとか)との会話で、 民家再生や改修によって継がれていくことへの広がりを嬉しく思い、 仕事の枠を超え、ライフワークとして取り組まれている白竹木材さんに、あらためて尊敬の念を強くしました。


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道路から屋根を望む石垣の表情もいい杉板が張られた、お蔵が接していた壁面
民家の外観

民家にぴったり付いていたお蔵を解体し、その部分と、風化した外壁の杉板は張り替えられ、サッシも入って、こじんまりした平屋の民家に生まれ変わっていました。

この家に残っていたという民具に活けられた秋の野花と、大きな写真のパネルをしつらえた玄関土間に、思わず「なんと素敵な空間!」と感激の私。
各部屋のコーナーなどにもしつらえた、ご主人の写真と奥様の生花とが、しっくりマッチして、まるでギャラリーのようです。
民家の改修にあたって、「全て白竹さんのお任せをした」とおっしゃるお施主さんご夫妻のセンスも、素晴らしいと思いました。

昔住んでた頃の土間は、現在の台所まで続き、おくどがあったそうです。
大学の先生(建築の)でもあった借家人が、台所を間仕切り、補修した壁が、グレーから煤けた色へのグラデーションが、それはそれで味わいになってると思いました。 (生けた花が置かれている左手の壁)
また、土間から8帖の板の間へかけての、きれいなカーブを描いた梁と経年変化の味わいが滲み出た土壁、素通しの欄間や建具の美しいコントラストにも感動しました。

古材の大きな座卓が置かれた居間踏み天井板も風格が玄関から北の部屋を望む
座敷から台所方角を望む居間と台所に隣接した部屋
奥座敷1奥座敷2奥座敷3

畑仕事の休憩場としての規模で改修された中、いちばん様変わりしたであろう北の台所は、明るく使いやすく改装されていました。
ことスペース的に浅めの奥行きになったという流し台と、その寸法にプレスされたシンクも、モザイクタイルにも、手仕事の温もりが感じられ、 古材で作られたテーブル兼作業台など、これから家を建てる人や改装したい人にとって、大いに参考になると思いました。
キッチンの出窓ダイニングキッチンの風景白竹木材の創作キッチン古材のテーブル兼カウンター

周りに家が点在しながら、とても静かな住まいに心が落ち着き、潮騒と風に揺れる樹木の音にも癒されました。
すっかり寛いで、お尻に根が生えてしまいましたが、2時間近くの見学を終え、感動を反芻しながら、ゆっくりと帰路に着きました。

■ ■ ■

  後日談です。

白竹木材さんから、来場のお礼と11月に開催の創業祭の件でメールをいただきました。
その際、私は「幡豆の家」の感想を、下記のように記して返信しました。

   おだやかでシンプルな佇まいは、知足を感じさせ
   お施主さんにとっての、近距離別荘であり、ゲストハウスとしても
   また、終の棲家になるかもしれませんね。
   小さな家が好きなものですから、尚のこと惹かれました。


その夜、ふたたび白竹さんから、
  “同じ日に、あの家の奥様から、「足るを知るという事で、知足舎にした」
   とのご連絡が入って・・・”
というメールをいただきました。
白竹さんも不思議がられていましたが、私もびっくりでした。
それと同時に、思いの共有を与えてくれた古い民家に、ますます魅力を感じました。
手を入れて住み継がれていかれる家は、住まいと暮らしの原点というものを揺り起こし、
豊かさの本質を目覚めさせてくれるのかもしれませんね。
古い民家の「力」だとも思いました。