ところがすぐ近くに、じいさんのくたびれたスニーカーが見え始めたときだ。
「おい、ぼうや。靴のひもがほどけているよ。危ないからしっかり結んだほうがいい」
 頭の上から突然じいさんの声がひびいて、ぼくもトシも驚いたのなんのって。
 顔を上げたぼくの目に飛び込んできたのは、ぼくを見下ろすじいさんの優しい
目、腰にくくられたビニール袋、炭をはさむ長い火ばし。
 急いで足元を見ると、なるほどひもがほどけてズルズル引きずっていた。
「ありがとうございます」
 ひもを結び終えて顔を上げると、じいさんはとっくに向こうへ歩き去っていた。
 どうやら道に転がっている空き缶やゴミを拾っては、腰のビニール袋に入れている
ようだ。さっきぼくたちがけ飛ばしていた空き缶も、拾って袋に入れるのが見えた。
 家に帰ると、昼ごはんが待っていた。
「かあさん、この頃変なじいさんに会うんだけどさ、あのじいさんだれかなあ」
「変なじいさんって?」
「あのさ、ビニール袋を腰に下げてゴミ拾って歩いてんだよ」
「ああ、ひょっとして松井さんのおじいちゃんのことじゃない? 上下紺色のトレ
ーニングウエアーを着てた?」
「うん、そう。あのじいさん、ちょっとやばくない?」
「なに言ってるの。松井さんはしっかりしたかたよ。最近、奥さんを亡くされてし
ばらく見なかったけど・・・。 そうそう、この頃ごみや空き缶なんかを拾って町内
をきれいにして下さっているって聞いたわね。ケン。会ったらちゃんとごあいさつし
てよ」
 母さんと目が合った。
「ふーん、そうなんだ」
 やばいぞ、かあさんには、ぼくの行動がお見通しみたいだ。

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