うさぎの見張り場所は、通学路をはさんでウサギ小屋が見渡せる空き地。
マキの木が目かくしになり、校庭のフェンスごしにこっちは見えないはずだ。
「わー、松さんカッコイイ」
 松さんは、警備服のようないでたちでやって来た。ズボンのすそをブーツの中に
入れ、とても動きやすそうだ。
「雨も上がったし、夜は風が出るな」
 松さんの話すことに一々うなずきながら、ぼくたちはなんだか大人になった
気がした。
 暗くなる前に、うさぎ小屋の周りを調べた。カギは付いていないが、高い所に
留め金が取り付けられていた。
 一番近い出入り口も確認した。
 町中が寝静まって、いよいよ見張りの開始。何も起こらない見張り番は大変
なんだ。
 話したいけど話せない。時間つぶしに何か食べてはお茶を飲む。当然、何度も
トイレに走りたくなった。
 代わるがわる、ティラノ公園のトイレに走る。いつも遊びなれた公園のトイレだ
からへっちゃら、と思ったけど暗くなってからのトイレ、それも一人で行くトイレ
は不気味ったらない。
 ぼくは、そっと近づいてきた猫にも、飛び上がらんばかりに驚き、大きな声は
出せないから目だけ張り裂けそうに見開いて、声を飲み込んだ。
 風で揺れる桜の木が、長い腕を伸ばしてつかみかかる。
 同じ場所なのに、昼と夜の顔は全く違った。

 時間はわからない。
 うさぎ小屋に近い西門の、車の付いた引き扉が、ガラガラッと鳴った。
「ここから動くなよ」
 松さんは前を向いたまま、押し殺した声を残して、さっき開けられた同じ門
から、そおっと校庭に入って行く。

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