フェンスの向こうの黒い人影が、上に手を伸ばした。
「カシャン、キイー」
 影はうさぎ小屋の中に吸い込まれ、静かになった。
 ぼくは、飲み込んだつばがゴクリと音を立てた気がして、思わず手で口を押
さえた。
 隣ではトシが目を見開き、今にも飛び出して行きそうなかっこうで、身構えて
いる。
「おい、君。そこで何をしてるんだい」
 松さんの声がひびき、懐中電灯の光が、中にいる人間を照らし出した。
 おそろしく背の高い人だ。
 ぼくの心臓はまるで、小さな太鼓のように、ドコドコ鳴っている。
 体が震えるのでトシに近づくと、トシの体も小刻みに震えていた。
 松さんが、腰をかがめて中に入った。
 黒い影が動いた。
 松さんを押して、脇をすりぬけ、逃げようとしたのか。
「待て!」
 松さんと大男との、もみ合う音がする。
 静かになって、二つの影がうさぎ小屋から出てきた。
 後ろ手に男の手首をねじ上げた松さんが、西門から出て、ぼくたちのところへ
やってきた。
 おそろしく背が高いと思った人は、近くで見るとひょろりとして、松さんより
少し大きいだけだった。
 懐中電灯の明かりで、男の顔がはっきり見えた。
「あ! こうちゃん! 」
 三つ年上の、ぼくんちの隣のこうちゃんだ。
「けんいち君の知り合いかね?」
「はい、隣のこうちゃんです」
「そうか」

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