それだけ言うと、松さんはこうちゃんの背中を軽くポンポンと叩き、 「今日は遅いから、事情はあす話してくれ、な。さ帰ろうか」 と、置いてあった荷物を肩にかけ、歩き出した。 こうちゃんが松さんと並んで歩き、ぼくとトシも荷物をまとめて、二人の後 に続いた。 のどが渇いて目が覚めた。夢の続きのように、昨夜のことがよみがえってくる。 台所へ行くと、朝食を終えた父さんが、お茶を飲んでいた。 「昨夜は、どんなふうだったんだい」 夜中に帰った時、父さんは寝ていたから、詳しい事情はまだ知らない。 「うん、大体は見当がついたみたい。松さんが解決してくれるよ」 「そうか、とにかく松井さんの指示に従って、危ないことだけはするなよ」 「うん、わかってる」 ピンと張り詰めていた気持が「松さんが解決してくれるよ」と、ことばに出 したことで、スーっと和らいだ気がした。 コップいっぱいの麦茶を飲み干し、もう一眠りしようと部屋にもどった。 朝十時にこうちゃんと待ち合わせ、ぼくたちは松さんの家へ向かった。 部屋に上がると、すだれ越しに見える、手入れの行き届いた坪庭から、涼し い風が入ってきて、気持がよかった。 居間のテーブルの前に座ると、松さんが口を開いた。 「さてと、こうちゃんと言ったかね?」 「はい、久保康平です」 静かな声だ。 「こうへい君が、うさぎを連れ出そうとしたのには、何か訳があったんだね?」 問いただすのではなく、松さんも静かに尋ねた。 テーブルの上とも、どこともなしに、宙を見ていたこうちゃんが、ぽそっと言った。 |