「おやつの時間には、帰っていらっしゃい。クッキーを焼いておくからね」
おばあちゃんの声を背中に聞いて、ふたりは家を飛び出しました。 朝、アーカンさんが鳴いていた木のそばへ行ってみましたが、もういませんでした。 少し先の小川の近くまで行ってみましたが、やっぱりアーカンさんは見あたりません。 野アザミが風にゆれているばかりです。 カーヤとミュウは、しばらくミズナラの木のこずえをゆらして吹く、涼やかな風と遊 んだり、シオンやササユリを摘んだりしながら家へ帰りました。 おばあちゃんが、おいしいクッキーを焼いて待っていてくれるはずです。 二人は、もう小鳥のことは忘れて、大急ぎ家の戸をあけました。 「ただいまー」 「おお、カーヤ、ミュウ帰ってきたか。おばあちゃんの具合が少し悪いんだ。いつものくす りを探しているんだがね、見つからないんだよ」 「おばあちゃん、おばあちゃん大丈夫?」 おばあちゃんは、「ひゅー、ひゅー」のどを鳴らし、額にはいっぱい汗が光っています。 「カーヤ、すまないがおばあちゃんのくすりを買って来てくれないか。おじいちゃんはこ こを離れるわけにはいかないからね。森に入る少し手前に、くすり屋さんがあったのを おぼえているだろう?」 「うん」 「あそこで、このくすりを買ってきておくれ」 くすりの名前が書かれた紙と、お金の入った小さな布袋。カーヤはそれをしっかり握 りしめ、おじいちゃんに、こくんとうなずくが早いか、 「ミュウ、おいで!」 と、ミュウの手を引き、家を飛び出しました。 「あそこのおくすり屋さんなら、森を出てすぐだから、大丈夫わかるわ」 カーヤとミュウは、車道へ出ると左へ折れ、ずんずん歩き、時々走りました。 「おばあちゃんのおくすり、おばあちゃんのおくすり」 口の中でじゅもんのようにとなえながら、進んで行きます。 ところが、ふたりはお父さんの車で来た時には、見たこともない分かれ道につき当た ったのです。 |