おくすりは なあに P3

「おやつの時間には、帰っていらっしゃい。クッキーを焼いておくからね」
 おばあちゃんの声を背中に聞いて、ふたりは家を飛び出しました。
 朝、アーカンさんが鳴いていた木のそばへ行ってみましたが、もういませんでした。
 少し先の小川の近くまで行ってみましたが、やっぱりアーカンさんは見あたりません。
 野アザミが風にゆれているばかりです。
 カーヤとミュウは、しばらくミズナラの木のこずえをゆらして吹く、涼やかな風と遊
んだり、シオンやササユリを摘んだりしながら家へ帰りました。
 おばあちゃんが、おいしいクッキーを焼いて待っていてくれるはずです。
 二人は、もう小鳥のことは忘れて、大急ぎ家の戸をあけました。
「ただいまー」
「おお、カーヤ、ミュウ帰ってきたか。おばあちゃんの具合が少し悪いんだ。いつものくす
りを探しているんだがね、見つからないんだよ」
「おばあちゃん、おばあちゃん大丈夫?」
 おばあちゃんは、「ひゅー、ひゅー」のどを鳴らし、額にはいっぱい汗が光っています。
「カーヤ、すまないがおばあちゃんのくすりを買って来てくれないか。おじいちゃんはこ
こを離れるわけにはいかないからね。森に入る少し手前に、くすり屋さんがあったのを
おぼえているだろう?」
「うん」
「あそこで、このくすりを買ってきておくれ」
 くすりの名前が書かれた紙と、お金の入った小さな布袋。カーヤはそれをしっかり握
りしめ、おじいちゃんに、こくんとうなずくが早いか、
「ミュウ、おいで!」
と、ミュウの手を引き、家を飛び出しました。
「あそこのおくすり屋さんなら、森を出てすぐだから、大丈夫わかるわ」
 カーヤとミュウは、車道へ出ると左へ折れ、ずんずん歩き、時々走りました。
「おばあちゃんのおくすり、おばあちゃんのおくすり」
 口の中でじゅもんのようにとなえながら、進んで行きます。
 ところが、ふたりはお父さんの車で来た時には、見たこともない分かれ道につき当た
ったのです。