そして、魔法使いのこん跡を父さんに見い出すこともできないまま、
「ごちそうさまでした!」 と朝ごはんは終った。 そして出勤前に父さんは、いつもの通り、お気に入りの家庭菜園を見に出かけ て行ってしまった。 私は、何かおかしいんだけどなあと思ってはみたけど、その後は、夏休み前の テストがあったり何やかやで、家の玄関に住んでいるかもしれない魔法使いのこ とは、それっきり忘れてしまった。 別に私が、取りわけ忘れっぽい子だと言うわけではないと思う。だって、その 後何日かたったけど、父さんの身にこれと言って何も起こらなかったからね。 待望の夏休み、しゅん兄ちゃん以下私たちが、セミの大合唱の中、夏休みの宿 題をがんばっていると、母さんがにこにこしながら私たちのそばへやって来た。 「今日は、父さんが帰って来たらみんなで夕すずみに出かけましょ。帰りにほた る狩りもできるし、みんないい子にしてるのよ」 「やったあ」 「わあい、ほたる狩りだ、ほたる狩りだ」 「母さんありがとう」 私とめぐみは、もう勉強どころではない。ひろしにいたっては、部屋の中をか け回ったり、飛びはねたり大騒ぎ。 かんけりやおにごっこ、おはじきやたけとんぼなんかもおもしろいけど、なん てったって、家族みんなで行くほたる狩りはかくべつべつよね。 「よーし、宿題明日の分まで片づけるぞ。かほ、めぐみ、今日の勉強早く終らせ ちゃえ」 しゅん兄ちゃんは、一人兄貴風を吹かした。 「母さん、ゆかた着て行っていい?」 「めぐも!」 私とめぐみは、両方から母さんの腕をゆすった。 「いいわよ。早めにお風呂に入って、さっぱりして出かけましょう。かほ、今日 はお姉ちゃんが部活でおそくなるから、あなたがひろしといっしょにお風呂に入 ってね」 |