「うん、わかった」
「めぐもいっしょに入る。三人で入っていいでしょう?」 「そうねえ、どう?二人のめんどう見られる?」 「大丈夫、任せて。私もう五年生なのよ」 「そう、それじゃ任せたわよ」 私は、トンと胸をたたいてみせた。 毎年、何度かくり返される私んちの、ささやかな小旅行とでもいうのかなあ、 私は夕すずみ散歩が大好きなの。だって、家族そろって出かけるのよ。お祭りで もないのにゆかたを着て、げたをカラコロさせながらすずしい風に吹かれて・・・。 考えただけでもわくわくしちゃう。 その上今日は、もも姉ちゃんのかわりに、ひろしをお風呂に入れる役もおおせ つかったし、母さんに頼りにされ、鼻歌が出るほどうれしい。 夕方になり、ひろしとめぐみと私の三人でお風呂をすませ、父さんやもも姉ち ゃんの帰りを待った。五時半ころにはみんながそろったので、さあ出発。 私たちは虫取り網と虫かごを持ち、やはりゆかたを着た父さんたちは、うちわ を持っている。ひろしもゆかたの肩に、小さな虫取り網をかついで得意顔だ。 外はまだ明るかったけど、どこかへ寄る用事があるらしいので、私たちは暗く なる前に家を出たのだ。 カラコロ、げたの音をひびかせ、にぎやかな通りに出ると、やおやのおじさん が、とまとを並べている手を止め、頭からてぬぐいをはずして父さんに声をかけ た。 「おや、おそろいで散歩ですかい。いいねえ」 「いやあ、まあ。家の中は、子供たちの熱気でムンムンしているのでね」 にこやかな、やおやのおじさんと父さんの顔。 「そうでしょう、そうでしょう。気を付けて行ってらっしゃい」 「はい、ありがとう。それじゃ」 父さんは、帽子を少し持ち上げておじぎをした。しばらく行ってふり返ると、 おじさんはまだそこにいて、てぬぐいで汗をふきながら私たちを見送ってくれて いた。 |