そこを過ぎると家もまばらになり、少し行くともう両側は田んぼになった。青々
とした稲の葉が、かたむきかけた日の光を照り返し、さわさわと広がっている。
 私たちは父さん母さんの、前になり後になりしながら、村の道をそぞろ歩いた。
そして、道ばたにある大きな杉の木のそばで足を止めた。
 見るとそこには、ひとかかえもありそうな石があった。石の表面はでこぼこし
ていて今にもくずれそうな感じだ。石の頭には、はち巻のようにしめ縄が巻かれ
ている。
 父さんはその前に立つと、さもおごそかに手を合わせ、お祈りを始めた。
 母さんは、石の前に里いもの葉をしき、持ってきたお米や瓜などのくだもの、
紙に包んだおさい銭と、割りばしをお供えした。
 前にもだれか来たらしく、あたりにはローソクやマッチの燃えカスが落ちてい
る。母さんも、マッチでローソクに灯をともした。
 何が始まるのかしら。私もほかのみんなも、神妙な顔で二人を見守った。する
とお祈りをすませた父さんが、割りばしを持って私たちに向き直り、
「さ、手を出してごらん」
と一人ずつ手を取って、表と裏を調べたのだ。
 私の手の甲には、二つぶ。しゅん兄ちゃんの手には何個か。ひろしを除き、も
も姉ちゃんとめぐみの手にも、一つぶか二つぶのいぼがあった。
 父さんはそのいぼを、さも大事そうに一つ一つ割りばしでつまんでは、でこぼ
こした石に移していく。いいえ、移すようなしぐさをするだけ。だって、そうし
てもいぼは、まだ私の手の甲についたままなんだもの。それが終わり、口の中で、
「はあー、なむなむ。はあー、なむなむ」
と、手をすり合わせお祈りをくり返している父さんは、何だかこ
っけいだった。でも、その間中父さんはとてもまじめな顔だった
から、全部すむまで、私も真剣な顔をして終るのを待った。
 散歩の途中ここに寄ったのは、このごろ学校で流行しているウイルス性のいぼ
と、それを取ってくれるいぼ神様のことを、母さんが近所の人に聞いて来たんだ
って。それで寄り道をしたのだ。
 私たちは、ほたる狩りがしたいだけ。だから父さんのなむなむが終ると、一気
にほたる狩りの態勢に移った。

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