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「かほ姉ちゃん、大丈夫? 魔法使いって、かわいい子を食べちゃわない?」
「それはわかんない。でもめぐみ、あんたはだいじょうぶ。心配しなくていいよ」
「ほんと!」
 夜になって、いつも父さんが酔って帰ってくる時間が近づいていた。私とめぐ
みは、玄関がよく見える次の間でたいきしていた。めぐみは、父さんが帰ってく
るかどうかをしきりに気にし、だんだん体を乗り出すものだから、私は時々めぐ
みを後ろからふすまのかげに引きもどさなければいけなかった。
「かほ姉ちゃん、まだ?」
「もうすぐよ。いい、父さんが玄関に入って来るでしょう、その後が大事なんだ
からね。父さんのまわりを、よーく見ておくのよ」
「うん」
 やがて表の門のあたりに、父さんの靴音がひびいた。その靴音がだんだん近づ
き、玄関の戸の前で止まった。
「ただいま!」
 いつもの顔で、父さんが玄関へ入って来た。
そして、戸を後ろ手でしめるかしめないうちだった。
「父さん、お帰んなさい!」
 めぐみが、とつぜん出て行こうとするの。私はあわててめぐみをつかまえ、め
ぐみの腰をかかえたまま、いっしょに後ろへごろんとたおれてしまった。
「めぐみ、どいて!」
 めぐみをおしのけ、急いで起き上がった時には、父さんはいつもの酔っぱらい
父さんで、玄関に大の字になって寝転んでいたと言うわけ。
「もう、めぐみのばか!」
怒ってみても、あとの祭りだった。
「母さあん、酔っぱらい父さんが帰ってきた」
 めぐみは、母さんを呼びに台所へかけて行ってしまった。
 その後はやっぱりいつもの通り、歯を食いしばり、うんうん言いながら、みん
なで酔っぱらい父さんを運んだのだった。
 それにしても、父さんはどうしてあんなにコロッと変わってしまえるんだろう。
 あと少しの所だったのに、う〜ん残念だなあ。