リキは、左右にゆれながら閉じたり開いたりする、光るものから目
を離しませんでした。
男は、ローチェストの上で鈍い輝きを放っている、トロフィー(それ
は、ミホホが棒のぼり競争女子の部で優勝し、獲得したもの)に手をか
けます。
リキは、男がトロフィーの重さを感じて目を大きく開けたのを、見逃
しませんでした。そして、光る目めがけて鋭くジャンプしたのです。
男は、突然飛んできた物体が、目に突き刺さった痛さに、
「ギャーァ!」
と、叫び声を上げました。
それは、リキを払い落としたときママが発した叫び声の、何十倍も大
きな声でしたので、家のまわりのマンション群の谷間にとどろき渡りま
した。
家々の窓には次々灯りがともり、住人たちは何ごとかと窓を開け、み
な恐るおそる顔を出したことでした。
まっさきに飛び起き、リビングに明かりをつけたママは、部屋の中で
うめいている黒いかたまりを見て、何が起きたのかと驚きました。
人間か、はたまた動物か? どうも体の大きな男の人のようだと分か
り、まずはひと安心。
ミホホ、タックン、ノンノまで起きてきて、ママの後ろから部屋の中
をのぞいています。
全身黒ずくめの男のうなり声だけが、リビング中に響いていました。
「ママ・・だれなの?」
ママの後ろで、ノンノがたずねます。
「わからないわ。だれかしらね・・」
「パパじゃない?」
ミホホは、そっと聞いてみました。
「いいえ、ちがいます!」
「この人、どうしちゃったの?」
タックンは、後ろから前に出てきて、男をのぞきこんでいます。