ママは勇気をだし、男に声をかけました。
「あのう・・・。あなたは、どなたですか? ここで何をし
ていらっしゃるの?」
ママの質問に、男は頭をこちらに向けようとしましたが、どうにも痛
そうに顔を手でおおったまま、また床にころがります。
そうこうしていると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきて、
家の前でやみました。
「ピンポーン」
ママとノンノが玄関に出ると、警官がふたり立っています。
ふたりは手を額の横に当て、ちょっと敬礼してから、心配そうに聞い
てきました。
「おたくの家から恐ろしい叫び声がしたと、近所の方から通報があり伺
いましたが、何か変わったことはございませんか?」
「はあそれが・・・どなたか分かりませんが、うちのリビングで苦しん
でいるんですの。上がって事情を聞いてみていただけませんか? さ、
どうぞ」
「は! では失礼します」
黒ずくめの男は、まだリビングの床にころがっていて、警官のひとり
が肩に手をかけると、ぶるっと体をふるわせ顔を上げました。
目だし帽姿の、いかにもあやしい男です。
警官は、その目だし帽をはぎとり詰問しました。
「君は、どろぼう目的でこの家に進入したのかね?」
男は、返事の代わりにうなずきました。
「まあー どろぼうだったの・・・」
「こわいよ!」
子どもたち三人は、ママにしがみつきました。
(それにしても、どろぼうはなぜすぐ逃げ出さなかったのかしら)
両方の腕を後ろにしばられた男の顔を見て、みんなはとても驚きまし
た。
男の片方の目に、何かが突き刺さっているのです。