昨年に続き、個展の準備をされていた創作着物作家のお宅を訪問した際、仕立て上がった着物を羽織らせていただいた中の一枚が、 墨黒にも見える灰緑に赤茶の細い縞が入った結城紬でした。
個性的な色なのに、むしろ洋服感覚で着られそうと、心に止ったのです。
ただ、洗い張りに出されているものの中に私好みのものがあると聞いて、欲張りな私は、それらが揃ってから決めようと思いました。
数ヵ月後、作家さんの確かな目で選択され、洗い張りを終えたリサイクルの紬は、生紬、結城紬、久米島紬、大島紬・・・と、どれも手触りがよく、 好みの色柄が多くて決めかねてしまいましたが、それでも 「一枚は創作着物を」とお願いしながら、ひょっとして他のものを選んでしまうかもしれないとも伝え、お任せしました。

友人たちと出掛けた、11月の個展初日、生紬と大島紬のリバーシブル仕立になった創作着物が、目に飛びこんできました。
威光茶(いこうちゃ)色の生紬は、よく見ると濃淡ツートンの上品な色合いで、裏はグリーンの大島紬。 素材もさることながら、手の掛りようを思うと、とびっきりの創作着物でした。
なのに、縞の結城紬との間で心は揺れ、いつもは直感的に即決する私にしては珍しい「迷い」でしたが、それぞれに込められた作家さんの想いに決断しかねたのでした。 そして、「最後の一枚は?」と自分に問いつつ決めたのは、結城紬でした。
  
私にはちょっと大きいサイズだったので、丈を直しついでに八掛けも私色に替えてくださるとのお心使いに、嬉しいやら申し訳ないやら。 出来上ったものを見せていただいたら、なんと久米島紬を使ってくださったのでした。
焦げ茶色に控えめな絣模様の久米島紬は、傷んだ部分が多いために創作着物への出番を待っていたもので、実は口にこそ出しませんでしたが、初めて訪問した時から気になっていた紬でした。
それを惜しみなく使ってくださり、「着てもらう人に、一番いい状態でお渡ししたいの」と言う作家さんの拘りに、私はどれだけ感謝しても足りないくらいでした。

結城紬というと、亀甲を凝らした絣模様をイメージしますが、昔は無地か縞柄が多かったそうで、茨城県結城市の問屋が「縞屋」と呼ばれるのは、その名残とか。
この縞結城紬も地機で織られたものだそうです。 親子三代にわたって着続けられると言われ、着れば着るほどに風合いを増し、着る人に温かい安らぎをくれるという結城紬ですから、 リサイクルものに出会えたことは、本当に幸運だったのでしょう。
慈しみ愛されて着続けられたであろう結城紬に、「私で何代目になるのかしら」との思いを馳せ、軽くてほっこりとした手触りと、作家さんのご厚意に包まれながら、 この先の人生を共にできる歓びにひたっています。

気に入ったものは、不思議と手持ちの帯や小物と合うものなんですね。
写真上の帯は、骨董市で買った反幅の帯を、お太鼓が結べるようと、同じ作家さんに仕立て直していただいたものです。
薄赤茶の帯締めと、共生地の足袋も作家さんの個展のもので、いつものベージュの帯揚げを組ませました。
裏地のクリーム色が着物と映り良く、この色を帯揚げや帯締めに持ってきてもメリハリが出ますし、レンガ色も良さそうです。




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