「トシ、どう思う?」
 トシは、小さくなったランドセルを肩先でゆさりとさせ、ニッと笑ってぼくたち
を見た。
「だれかが、かっさらって行っちゃったとか。そんでもってそいつは、うさぎ汁にして
食べちまった」
「よせよ。そんなの」
「はっは、じょうだんだよ、じょうだん」
「だけど変だよな」
 始業前のチャイムが鳴り、みんなは教室へかけて行く。
「ケン、そのうち見つかるって」
 トシは何ごとにつけても、あまり深刻に考えないたちだ。
 ぼくはやっぱり、気になる。
 朝の会で担任の先生も、うさぎが一わいなくなった話をした。
「近くにいるのを見つけたら、知らせるように」
 どうやら、うさぎが一人で逃げ出したと思ってるらしい。
ひとしきりざわついた後、算数の授業が始まった。

 ところが次の月曜日、また一わ いなくなっていたんだ。
「こいつはおもしろくなって来たぞ」
 トシは、こぶしを握りしめてガッツポーズをしている。
「おもしろがってる場合じゃないだろう」
「こんなことでもなきゃ、五年生のぼくらはやってらんないの。ケン、おまえだってほ
んとは何かあるぞって、わくわくしてんだろう?」
 ぼくは、なにも言えなかった。
 それにしても、野良犬が入ってうさぎをおそったとか、だれかがうっぷん晴ら
しにうさぎに危害を加えた、というのでもないらしい。
 うさぎ小屋の中は、少しも荒らされていなかったんだ。

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