夏休みに入った校庭は、きそいあって鳴くセミの声だけで、だれもいなかった。
「ほーら、わが家に帰って来たぞー。うれしいかー」
 トシは、しきりにうさぎへ、話しかけている。
 うだぎ小屋の近くにある、花壇のそばまで来たときだ。
 赤いサルビアの花のあいだで、なにか白いものがゆらゆら動いている。
 うさぎの耳・・・?
「あー、うさぎだ。もう一わのうさぎがいるよ」
 ぼくが叫ぶと、
「ほんとだ。どうやってここまで来たんだ?」
 トシは顔をくしゃくしゃにして喜んでいる。
「どんな動物にも、帰巣本能があるというから、一生懸命に仲間のところへ帰っ
てきたんだろうなあ」
 松さんも感心している。
 こうちゃんが、グレーのうさぎを松さんにあずけ、花壇に近づいて赤いサルビ
アの花の中から、白いうさぎを抱き上げた。
「よく戻ってくれたな。ごめんよ」
 こうちゃんの目にたまっていた涙が、うさぎの上にポロッとこぼれるのが見え
た。
 ぼくたちは、その日のうちに二わのうさぎを、小屋の中に戻してやった。
「うさぎを持ち出して、ごめんなさい」という、手紙を添えてね。

 この夏休みは、松さんの提案でとても楽しいものになった。
 それは、休みの間だけ、町の美化運動に貢献しようというものなんだ。
 美化運動というのは、早い話が、ごみ拾いやビン、カン拾いのことさ。
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